現代文化論叢

現代文化への「解釈」を探究する

ジャニヲタ研究大事典07:「シンメ」

f:id:kt-toraoka:20191213025203j:plain

シンメとは、タレントのダンスのフォーメーションでシンメトリーを担当するペアのことを指す。

東園子が宝塚ファンたちにおける「相関図消費」を指摘したように、それがシンメにも見える。

これが、ほとんどBL愛好家たちによるカップリングの様相を呈している場合もあり、これには女性の本能的な男性間の男同士の絆(ホモソーシャル)への拒絶感があると考えられる。

すなわち、男同士が関係を結んだとき、ホモソーシャルな関係が成立する(もちろん例外もあるだろうが)。そのとき、ホモソーシャルな関係には2つの特性が指摘されている。一つ目は、ホモフォビアであり、同性愛嫌悪。二つ目は、ミソジニーであり、女性嫌悪である。

つまり、男性のアイドルユニットがホモソーシャルな関係を結んでいるとすると、そのファンの主体を占める女性は、彼らから排除され、むしろ嫌悪されることを示している。

これに対して女性が本能的に自らを守るために考え出したのが、彼らにホモソーシャルを認めず、ホモセクシャルへと転化させることではないか。つまり、「彼らは男同士の絆を結んでいるのではなく、愛し合っているのだ」と信じることで、集団の持ちうるミソジニーという特性を拒絶しているのである。

 

     ◆

 

もちろん、シンメやペアを愛好するとしても、必ずしも彼らに恋愛感情を見出すわけではない。

そうした場合、その関係性=相関図を消費する。

それがなぜかといえば、やはり相関図消費の上位概念であるデータベース消費を参照する必要があるだろう。

データベース消費とは東浩紀の提起した概念であり、乱雑に説明すれば、近年では、蓄積されたデータベース(≒設定)から任意の要素を取り出し、物語を作り上げ消費する、というパターンである。

アイドルを推す以上、アイドルも人間であるから、多面的であるはずだ。つまり、好きな人間もいれば、嫌いな人間もおり、元気な日もあれば、疲れている日もあるはずだ。そして、言葉では表面化させないような、本人の思想・心情がある。

つまり、アイドルはそれ自体がデータベースとして存在する。ファンは、アイドルの発言や行動といった無数のデータベースから、任意の材料を取り出し、自分好みの物語を練り上げる。それが端的に現れた例が、夢小説などだろう。

ここで相関図消費に話を戻すと、相関図というのは、そうしたデータベースに新たな設定を追加する。

例えば、Aというタレントがいたとする。そのAが、Bというタレントに見せる顔と、Cというタレントに見せる顔は違う。そこで、AとBの間の関係性=その中で見せる顔に惹かれるのが、ジャニヲタの関係性消費の特質であろう。

 


Snow Man【Mr.お化け屋敷】ついに世代交代!? 二代目襲名!

上の動画は、その中で話題になったものである。

Snow Man(スノ)に同時期に加入した目黒蓮向井康二のペアリングである「めめこじ」に注目したヲタクたちが熱狂した。

冒頭で、メンバーの岩本照と向井康二が二人でお化け屋敷に入ったのだが、その動画を見ていたメンバーのうち、目黒蓮の顔が怖い、と評判になったのだ。

それは、想像豊かなファンが、目黒の顔が怖いのは、向井を岩本に取られた嫉妬心からだと考えたためだった。

この2人は厳密にシンメではないが、このように、ある2人を結びつけ(場合によっては3人)、兄弟やさながら恋人同士にような関係を妄想する。その際、名前の一部分を使ってペアの名称が決定されるが、それはBLのタチとウケのような特定の意味合いを持つものではない。

このように、ジャニーズのタレントたちに期待されるのはわちゃわちゃ感なのである。

この点について西条昇・木内英太・植田康孝らは、「ジャニーズアイドルは「わちゃわちゃ感」と呼ばれる男性同士の親密さや絆をアピールして、男性アイドルに付随する女性の存在を無化する「偶像」になることに成功している」と指摘する*1が、これは慧眼と言えるだろう。

徳田真帆が「ジャニーズファンたちが彼らに求めているものは、「男らしさ」ではなく、むしろ上述のような少年的・中性的な魅力なのである」と指摘していること*2を考え合わせれば、ジャニヲタがタレントたちに期待するのが、少年たちのような「わちゃわちゃ」だと言えるだろう。

 

     ◆

 

一方、タレントの売り出し方として、意図的にホモセクシャルな関係を匂わせることがある。こうした場合、BLを愛好する女性を「腐女子」と呼称したり、BLを愛好するようになることを「腐る」と呼ぶことにならって、腐売りと呼ばれる。

*1:西条昇・木内英太・植田康孝「アイドルが生息する「現実空間」と「仮想空間」の二重構造:「キャラクター」と「偶像」の合致と乖離」『江戸川大学紀要』第26号、2016年3月

*2:徳田真帆「ジャニーズファンの思考」『くにたち人類学研究』第5号、2010年5月