現代文化論叢

現代文化への「解釈」を探究する

アメリカ民謡研究会Haniwa序論:「二台のドラム、一本のベース、合成音声よりあなたへ。」を聴く

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二台のドラム、一本のベース、合成音声よりあなたへ。 / 結月ゆかり

アメリカ民謡研究会Haniwaの曲を順番に聞いていこうと思います。今回はその第一弾です。

僕は彼の楽曲がどういう順番で投稿されたのか、詳しく知らないのですが、とりあえずYouTubeで一番古かったのがこの曲でしたから、それが一番古いんだろうということでここから始めます。

アメリカ民謡研究会Haniwa序論」と言っていますが、この「序論」というのは僕のよく使うワーディングです。とりあえず投稿されている楽曲全てについて一曲ずつ考察し、最後に、全楽曲を総合して何か論じられればいいと思います(その準備ということです)。

回を重ねるごとに、「ここは前に見た特徴が継承されている」みたいな言い方ができるかもしれません。

 

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この楽曲のテーマは非常に分かりやすくて、事実それがPVに文字として現れています。29秒の部分、「アメリカ民謡研究会の編成に関する実験。」がそれであり、では具体的にどのような実験をするのかと言えば、「問 ギターは必要か。」とありますから、そこは信じて良いんだろうと思います。

つまり、この楽曲は、何かを伝えたいという意図があるわけではなくて、単なる実験だぐらいに抑えておくのが良いのかもしれません。

とは言いつつ、この楽曲から汲み取れることが無いわけではありませんから、それを以下で。

 

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PVを見ていて気が付くのは、彼が楽曲を作っていく過程が、極めて明確に示されていることでしょう。当然「実験」であるならばそれは当たり前です。というのも、「実験」において重要なのは再現性、つまり他の人が同じようにやれば同じような結果が得られるということだからです。

思い出してみれば、小保方晴子STAP細胞を発見したと主張したのにそれが認められなかったのは、本質的には論文の不正などではなく(もちろんそれも大きな問題ではあるが)、そこに再現性が無かったからだと言えます。

一方、音楽は普通、その一回性を強調してきました。

現代の技術をもってすれば、大抵の楽曲を最高のクオリティで録音し、それを何度も再生することは可能なはずです。ではなぜ、わざわざコンサートホールに行ってオーケストラの演奏を聴かなければならないのか。

考えてみれば、オーケストラの演奏を聴きに行ったとしても、もしかしたらその日、演奏者の体調が悪くて、演奏にミスがあるかもしれない。それであれば、最高の状態を録音したデータを再生した方が、よほど良いのではないでしょうか。

それでも音楽を聴きに行くのは、もちろん「音の奥行き」みたいな技術的なことはあるのでしょうが、何より、音楽を奏でる─音楽を聴くというのが、その一回性を強調してきたことに根源があるでしょう。

言いかえれば、「同じような演奏は二度とない」という一回性をこそ、称揚してきたのです。

この楽曲に戻りましょう。

この楽曲は、PVで、その作り方が明らかにされている。論理的に言えば、説明されている通りやってみれば、誰でも全く同じ楽曲が演奏できるということになります。これが再現性です。

ここまで来れば分かるでしょう。この楽曲は、音楽の一回性に挑戦して、「再現性ある音楽」の可能性をこそ実験しているということに。

言ってみれば、この音楽の一回性こそが2:20に出てくる「常識の宗教」と言えるでしょう。

 

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全体的にこの楽曲を取り巻く「不気味さ」というのは、例えばボーカロイドの結月ゆかりの歌が、あまりにメロディラインに乗っていないことによるところもあるのでしょう。あるいは、ボーカルの占める割合が少なすぎることも。

しかし、例えば2:39あたりに突如出てくる「平成二十六年五月二十日二十三時五十七分。」という部分を見てみましょう。

なぜここが不気味な感じがするかと言えば、先ほどからの議論でそれについて考えられます。というのも、この楽曲は音楽の一回性を破り捨てて、その再現性について検証している。この再現性というのは、この楽曲自体の内部では、反復性という形を取って、ソフトウェアによってループ再生されたベースの音で示唆されます。

それであるのに、突如出てくるこの日付は、そうした再現性─反復性を一気にひっくり返し、一回性を帯びているかのように装っているのです。言ってみれば、再現性─反復性を示唆しながら、それをあえて歪ませて、一回性を彷彿とさせるので「不気味」なのです。

従って、この楽曲を聴く上でのキーワードとは「再現性」にあるのではないかと思います。今回はこれぐらいにしたいと思います。